古典B 14〜 狼と母牛⑵
⑴の続き…
〜話に出てくる助動詞〜
なり(推定・伝聞・断定)ず(打消)
けり(過去・詠嘆)り(完了・存続)
ぬ(完了・強意・並列)き(過去)
らむ(現在推量・現在の原因推量、伝聞、婉曲・水量)
る(自発・可能・受身・尊敬)
む・むず(推量・意志・適当、勧誘・仮定、婉曲)
たり(存続・完了・断定)
①これを、牛の主の隣なりける小童部、それもまた牛追ひ入れむとて、田居に行きたりけるが、狼の牛を巡りありきけるまで見けれども、
②幼き奴にて、日の暮れにければ、牛のを追ひて家に帰り来たりけれども、ともかくも言はでありけるに、かの牛の主のの、夜明けて、
ともかくも…どのようにでも。ともかく。
③「夜前、牛を追ひ入れざりける。その牛は食みや失せぬらむ。」と言ひけるときにぞ、隣の小童部、「御牛は、夜前しかしかの所きてこそ、狼の巡りありきしか。」と言ひければ、
夜前…ゆうべ。昨晩。
しかしか…(略する)こうこう。うんぬん。
④牛の主、聞き驚きて、惑ひ騒ぎて行きて見ければ、牛、大きなる狼を片岸に付き付けて、動かで立てり。
⑤子は、傍らに泣きて臥せりけり。牛の主の来たれるを見て、その時になむ狼を放ちたりければ、狼は死にて、皆ひしげてなむありける。
臥す…うつむく。隠れる。
ひしぐ…つぶれる。ひしゃげる。
⑥牛の主これを見て、「あさまし。」と思ひけるに、「夜前、狼の来て食はむとしけるを、かく突き付けたりけるに、『放ちてば食はれなむず。』と思ひて、
夜もすがら放たざりけるなりけり。」と心得て、
⑦牛をなむ、「いみじく賢かりける奴かな」と褒めて、具して家に帰りにけり。
いみじ…優れている。立派だ。
⑧然れば、獣なれども、魂あり賢き奴は、かくぞありける。これは、まさしくそのほとりなる者の、聞き継ぎて、かく語り伝へたるとや。
然れば…そうであるから。だから。
魂…判断力。適切な行動をとるための知恵。
語り伝へたるとや…語り伝えているとかいうことだ。