古典B 12〜 狼と母牛⑴
〜話に出てくる助動詞〜
けり(過去・詠嘆)ず(打消)
たり(完了・存続・断定)き(過去)
む・むず(推量・意志・仮定、婉曲・適当、勧誘)
じ(打消意志・打消推量)
なり(推定・伝聞・断定)
る・らる(自発・可能・受身・尊敬)
つ・ぬ(完了・強意・並列)
①今は昔、奈良の西の京のほとりに住みける下衆の、農業のために家に牝牛をかひけるが、子を一つ持ちたりけるを
奈良の西の京…奈良の西半分の地域
下衆…身分の低い者
牝牛…メスの牛
②秋のころほひ、田居にはなちたりけるに、定まりて小童部行きて追ひ入れけることを、家主も小童部も皆忘れて、追ひ入れざりければ、
田居…田。
夕さり…夕方になると
小童部…(使われている)少年。
③その牛、子を具して田居に食みありきけるほどに、夕暮れ方に、大きなる狼一つ出で来て、この牛の子を食はむとて、付きて巡りありきけるに、
具す…そろう。備わる。
巡る…周囲をまわる
食みありきける…あちこち食べ歩いていた
④母牛、子をかなしむがゆゑに、狼の巡るに付きて、「子を食はせじ。」と思いて、狼に向かひて防ぎ巡りけるほどに、
かなしむ…可愛く思う。いとおしむ
防く…くいとめる
④狼、片岸の築垣のやうなるがありける所を後ろにして巡りけるあひだに、母牛、狼にむかひざまにて、俄かにはくと寄りて突きければ、
築垣…貴族の家の周囲の土の塀
向かひざまにて…向かい合う状態で
俄か…急なさま。突然だ。
はくと…ぱっと。どっと。
⑤狼、その岸に仰けざまに腹を突き付けられにければ、え動かでありけるに、母牛は、「放ちつるものならば、我は食ひ殺されなむず。」と思いけるにや、
力を発して、後ろ足を強く踏み張りて、強く突かへたりけるほどに、狼は、え堪えずして死にけり。
え…(〜することが)できる
⑥牛、それをも知らずして、「狼はいまだ生きたる。」とや思ひけむ、突かへながら、夜もすがら、秋の夜の長きになむ、踏み張りて立てりければ、子は、傍らに立ちてなむ泣きける。
夜もすがら…一晩中。夜通し。
傍ら…物や人のそば。わき。
⑵へ続く⇨⇨⇨